Mobile World Congress 2017(MWC)のクアルコムブースでは、Snapdragonなどの同社のチップセットの展示に加え、5G関連など、同社が研究開発している各種技術の展示も行われている。
Xperia XZ Premiumの通信速度
 Snapdragon関連では、最新のハイエンド製品であるSnapdragon 835採用のスマートフォンとして、ソニーから発表されたばかりの「Xperia XZ Premium」の通信技術展示も行われていた。5Gではないが、LTEの高度化には5Gの要素技術の先行導入という意味合いもあり、5G導入直前のタイミングでも、LTEの高速化は各社、積極的に取り組んでいる。
 デモは実際に電波を飛ばすのではなく、有線で通信信号を伝達する形式になっていたが、LTE経由で1Gbps近い通信速度を実現していた。これはFDD-LTEの3波キャリアアグリゲーション、4×4 MIMOを2本、2×2 MIMOを1本の合計3波を256QAMでフルに使うことで実現するもの。これにはSnapdragon 835が持つ、最大10個の通信ストリームを処理する機能が使われている。
試験用に有線改造されたXperia XZ Premium
 実際にこれだけの帯域がある環境は世界でもまれだが、たとえばオーストラリアのキャリアでは、Xperia XZ Premiumで実現しうる理論上の最高速度になるという。
 なお、MWCに合わせてクアルコムが発表した「Snapdragon X20 LTEモデム」では、12個の通信ストリーム処理が可能となり、最大1.2Gbpsの通信に対応する。
LAAのLTEによる動画配信デモ
 このGbps級のLTE通信を、免許不要の周波数帯を利用するLAA(Licensed Assisted Access)で実際に行うデモも行われていた。
 LAAは無線LANで使われている5GHz帯など、包括免許を必要としない通信帯域で、LTEの通信方式を使うというもの。現在は実用化に向けて標準化や法整備が進められている。通信技術自体はLTEなので、無線LANに比べるとより多数の利用者がひとつのアクセスポイントにアクセスでき、アクセスポイント間の移動(いわゆるハンドオーバー)の処理にも強く、周波数利用効率を高める技術も多い。
 会場でのデモでは、VRゴーグル向けの全周動画をLAAのLTEで、実証実験用端末に配信していた。全周動画は4K解像度でもVRゴーグルで視聴すると解像感の荒さを感じるようなものなので、もしストリーミング配信するのであれば、現状ではもっとも高いスループットが求められる用途である。
 LAA関連ではフェムトセルのLAA対応や工場など閉鎖環境でのLAAなどの展示も行われていた。免許不要の帯域でLTEを使うLAAあるいはLTE-Uは、免許帯域に制約されない帯域幅を確保できる技術として、大きな期待とともに近く実用化するべく法整備などが行われている。
5G NRのミリ波実験の模様。画面上の線は接続を示すだけではなく、電波の通り道を示している
 3GPPで策定中の5G NR関連の技術展示も行われている。5Gでは新しい無線帯域(New Radio=NR)を使うことが想定されていて、6GHz以下の周波数帯(Sub-6GHz)や、さらに光に近い特性を持つミリ波の利用が想定されている。
 とくにミリ波は、基地局から移動機を「狙い撃つ」ような指向性を持った制御が必要となる。ミリ波5G NRのデモ映像では、歩行者の移動機や車両内の移動機に対し、指向性を持った伝送波を送れていることが示されていた。
こちらはSub-6GHz帯の通信実験の模様
 5G NRの標準仕様は現在策定中だが、これまで2020年の商用化を目指していたところ、ちょうどMWC会期初日にあたる2月27日に、クアルコムら主要なインフラベンダーやキャリアなど22社が連名で、2019年のトライアルや商用化を目指し、5G NRの標準仕様策定を前倒しすることを標準化団体の3GPPに提出することを発表している。
 前倒しにあたっては、「Non-Standalone 5G NR」という仕様を、2020年商用導入前提の3GPP Rel.15に先立ち導入する。Non Standalone 5G NRはLTEネットワークを併用し(契約者情報や制御情報を4Gでやりとりする)、そこに5Gを追加する形式となる。5Gだけの端末が作れないが、5Gシングルモードの端末が登場する可能性の低い初期ローンチにおいては現実的な選択肢と言えそうだ。
 クアルコムでは5G対応モデムのSnapdragon X50 5G NRを発表済みだが、こちらはNon-Standalone 5G NRやGbps級のLTE、3Gや2Gのサポートも予定されており、トライアル・商用化の前倒しに対応するものとなる。
クアルコムによる車載コンピュータのリファレンスモデル。普通は右のように不透明な筐体に入っているハズ
 車載コンピュータ関連では、クアルコムが提供するリファレンスプラットフォームやそれを利用したソリューションも展示されていた。
 クアルコムが提供している車載コンピュータ向けのプラットフォームは、チップセットとしてはSnapdragon 820Aを搭載している。今回のMWCに合わせて、この車載プラットフォーム上で動くリアルタイム映像解析技術や各種位置情報を組み合わせた高精度な位置確認システムが、ナビゲーション製品を手がけるTomTomの地図作成に利用されることが発表された。
 TomTomはクアルコムのプラットフォームを用い、自動運転にも使えるような高精度な地図情報の構築を行っていくという。
 車向けの通信技術、「C-V2X(Cellular Vehicle-to-Everything)」の展示も行われている。これは車と何か(車や人、もの、インフラなど)の通信を想定したもので、LTEをベースに開発されている。
 C-V2Xは携帯電話通信網に接続することもできるが、それを介さず、近隣の車や人、そのほかのモノと直接通信することもできる。たとえば前方を走る車と通信し、前方の車が発見した路上の障害物を伝えてもらったり、歩行者の情報を取得して歩行者の飛び出しを警戒したりと、安全確認用途などが想定されている。
 無線LAN発祥の802.11pという似た位置付けの技術もあるが、C-V2XはLTE通信網に接続できるので、インフラを増やすことなく交通管制をするサーバーとも通信できるという優位点がある。
TomTomはクアルコムのプラットフォームを利用し、もともとの地図データを確認・修正していく
C-V2Xの通信イメージ。車両が発見した路上の障害物が通信で共有される
カテゴリM1のモジュールを内蔵した小型デバイス。荷物のトラッキングでの実証実験などに使われている
 通信の高速化とは逆に、低速低量通信をするLTE Cat-M1(カテゴリM1)もモジュールなどが展示されている。これはIoT機器などを想定したもので、チャンネルをより細かく分割し、より多くの機器が接続できるようにしている。
 リリース12で仕様化されていて、すでにモジュールなども登場していて、一部では試験的なサービスも開始されている。日本においては法制度や免許制度として、現時点ではカテゴリM1を使うことができないが、早ければ今年中にも日本でカテゴリM1が使えるようになるという。

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投稿者 Genmaiblog

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